秘すれば花、散れば蜜

秘すれば花、散れば蜜

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第一章 氷の華

雨音だけが、静寂を支配していた。

鎌倉の奥深くに佇む、私の生け花教室。

生徒たちが帰った後の稽古場は、ひやりとした冷気に満ちている。

「……佐和子先生」

背後から、濡れたような声が鼓膜を震わせた。

振り返るまでもない。

蓮(れん)だ。

二十二歳。私の教室で最も若く、そして最も危険な才能を持つ男。

「まだ残っていたの」

努めて冷静を装い、鋏(はさみ)を置く。

だが、指先がわずかに震えているのを、私は自覚していた。

「先生の生ける花は、綺麗すぎます」

彼は畳を擦る音もなく近づき、私の背後に立つ。

体温。

若い獣のような熱気が、着物越しに伝わってくる。

「隙がない。まるで、誰にも触れさせない要塞みたいだ」

「それが、この流派の教えです」

「嘘だ」

耳元で、熱い吐息が爆ぜた。

ビクリと背筋が跳ねる。

逃げようとする私の腰を、彼の大胆な腕が絡め取った。

「本当は、壊されたいんでしょう?」

「……離して」

「嫌だと言えば?」

彼の指が、帯の上を這う。

その動きは、花を生ける時の繊細さと、茎を断ち切る時の残酷さを併せ持っていた。

私の三十八年間の理性が、音を立てて軋み始める。

第二章 蜜の雨

抵抗できないのではない。

したくないのだと、身体の奥底が叫んでいる。

彼の唇が、うなじに触れた。

焼けるような刻印。

「ん……っ」

恥ずかしい声が漏れる。

それを合図にしたかのように、蓮の手が着物の合わせ目から滑り込んだ。

熱い。

荒れた指先が、柔らかな肌を直接愛撫する。

「先生の肌、こんなに熱い」

「だめ、蓮くん……これ以上は……」

「先生」

彼は私の耳朶を甘噛みしながら、低く囁く。

「生徒としてじゃなく、男として見て」

理性の防波堤が決壊した。

私は崩れ落ちるように、彼に体重を預ける。

畳の井草の匂いと、彼の男臭い匂いが混じり合い、脳髄を麻痺させていく。

帯が解かれる音は、理性の糸が切れる音に似ていた。

露わになった素肌が、夜の空気に晒される。

けれど寒くはない。

彼が与える熱が、私の芯まで焦がしているから。

「綺麗です、佐和子さん」

名前を呼ばれた瞬間、私は師であることを辞めた。

ただの、愛を乞う女に堕ちた。

彼の唇が、鎖骨から胸元へと降りていく。

執拗に、ねっとりと。

まるで蕾を無理やりこじ開け、中の蜜を啜るかのように。

「あ、あっ……!」

快楽の波が、足先から頭のてっぺんまで駆け抜ける。

私は彼の髪を掴み、しがみついた。

第三章 乱れ咲き

彼の手つきは、生け花の極意そのものだった。

優しく、時に激しく。

私の身体という花器に、彼自身の情熱を挿し込んでいく。

「もっと、奥まで……」

自分でも信じられない言葉が、口をついて出た。

羞恥心など、とうに溶けて消えている。

「望み通りに」

彼が動きを変える。

深く、重く。

魂ごと貫かれるような衝撃。

「あぁっ、んんっ!」

視界が白く明滅する。

身体の輪郭が溶け出し、彼と一つに混ざり合う。

痛みと快楽の境界線が消滅した。

私はただ、彼のリズムに翻弄される小舟。

彼が私を揺さぶるたびに、私の中で長年眠っていた何かが、狂おしく咲き乱れる。

「佐和子さん、愛してる」

「私も……蓮、もっと……壊して……」

絶頂は、唐突に訪れた。

全身の筋肉が硬直し、視界が弾ける。

頭の中が真っ白に塗りつぶされ、私は声にならない絶叫を上げた。

それはまるで、最も美しく咲いた瞬間に首を落とされる花のように。

残酷で、甘美な死。

第四章 残花

嵐が過ぎ去った後の静寂。

乱れた着物。

散らばった髪。

そして、私の肌に残る無数の紅い痕跡。

私は彼の腕の中で、荒い呼吸を整えていた。

「……酷い生徒ね」

「最高の作品が出来上がりましたよ」

彼は悪びれもせず、私の汗ばんだ額にキスをする。

私は知ってしまった。

完璧な形を保つことだけが、美ではないことを。

乱れ、崩れ、蜜を滴らせる姿こそが、本当の『花』なのだと。

「明日の稽古、覚悟しておいてくださいね」

蓮がニヤリと笑う。

「次は、僕が先生に教える番ですから」

私は力なく微笑み、その愛しい首に腕を回した。

この背徳の園から、私はもう二度と抜け出せそうにない。

AI物語分析

【佐和子】 「氷の華」とあだ名されるほど、美しくも冷徹な指導者。しかしそれは、自身の弱さと情熱を隠すための鎧である。蓮によってその鎧を剥がされた時、彼女は誰よりも淫らな「女」へと変貌する。 【蓮】 奔放な天才。佐和子の「型」に窮屈さを感じつつも、その奥にある抑圧されたエロスを見抜いていた。彼にとって佐和子を抱くことは、単なる情事ではなく、彼女という素材を使った芸術的な「破壊と再生」の儀式である。
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