検索してはいけない村、論破してみた

検索してはいけない村、論破してみた

主な登場人物

九条 透 (Kujo Toru)
九条 透 (Kujo Toru)
26歳 / 男性
常にブルーライトカット眼鏡をかけ、目の下にクマがある。服装は黒のパーカーのみ。神経質そうに指を叩く癖。
アーカイブ (The Archive)
アーカイブ (The Archive)
不詳(推定80年以上) / 無性
アイコンはノイズ混じりの古いモノクロ写真。文章は古語交じりの事務的な報告書形式。
ミナミ (Minami)
ミナミ (Minami)
19歳 / 女性
派手なインナーカラーのボブカット。スマホを常に手放さない現代っ子。
3 4571 文字 読了目安: 約9分
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第1章: 違和感の連鎖

午前二時。青白いモニターの光だけが支配する密室。4Kディスプレイが放つ冷徹な輝きが、闇の中から男の青ざめた輪郭を削り出していた。

九条透(トオル)。鼻当ての跡が刻まれた鼻梁を、指先が押し上げる。ブルーライトカットのコーティングが施された分厚いレンズの奥、あからさまな不健康を示す赤黒いクマ。その瞳が、画面上のテキストを猛禽類のように走査する。季節感を無視した着古しの黒パーカー。袖口から覗く、骨張った手首。神経質なリズムで、中指が『Enter』キーを叩いた。

「論理的飛躍がありますね。幽霊ではなく、低周波音が原因でしょう」

彼が運営するオカルトフォーラム『真実の目』の管理画面。透にとって、世に蔓延る怪談など、まだ科学の光が届いていないだけの未開の荒野。今夜の標的は、SNSで急速に拡散されている『カガチ村』という架空の集落に関する噂話だ。

またひとつ、非科学的な妄言を論破し、スレッドを閉鎖しようとしたその時。画面の右下、DMの通知アイコンが音もなく点滅。

差出人不明。アイコンはノイズの走ったモノクロ写真。蠢く黒い塊。

透は眉間に皺を寄せ、躊躇いなくクリックした。

『昭和二十年八月十四日 カガチ村役場業務日誌 写シ』

添付されていたのは、黄ばみ、蟲喰いだらけになった和紙の画像。解像度は妙に高く、紙の繊維一本一本までが鮮明。墨書きの達筆な文字が、モニターの光を吸い込むように並ぶ。

『本日は雨天なり。村外よりの来訪者一名あり。黒き衣を纏い、両の眼(まなこ)に硝子の板を嵌めたる若者なり』

停止する指先。

窓の外を見る。雨。予報にはなかった激しい雨が、窓ガラスを叩きつけている。

黒き衣。硝子の板。

視線は自分の胸元へ。黒いパーカー。そして、鼻にかかった眼鏡。

「……馬鹿げている」

乾いた唇を歪め、浮かべようとした嘲笑。だが、指先が微かに痙攣し、マウスカーソルが大きく滑る。

偶然だ。質の悪い悪戯。誰かが俺の服装を知っていて、手の込んだコラージュ画像を送ってきたに過ぎない。

そう結論付けようとした瞬間、新たな画像の着信。

『若者、指先にて卓を叩く癖あり。これ、儀式の合図なり』

ハッとして見る右手。人差し指が、無意識にデスクの天板をコツ、コツ、と叩いていた。

背筋を撫で上げる、氷柱(つらら)のような悪寒。

モニターの中の文字が、ただのドットの集合体ではなく、意思を持った視線となってこちらを覗き込んでいる。そんな錯覚を振り払うべく、透は荒々しくブラウザのタブを開いた。

「IPアドレスを割る。ふざけた真似を」

第2章: 解像度の向上

深夜のコンビニエンスストアで買った強炭酸水。喉を焼きながら胃の腑へ。

透は複数のウィンドウを展開し、フォロワーである『特定班』たちが集めたデータを地図データと照合中。

「透さん、これマジでヤバくない? もうやめようよ」

通話アプリの向こうから響く、少女の震えた声。ミナミだ。

インナーカラーを派手なピンクに染めたボブカットの自撮りアイコン。常にスマホを握りしめ、世界の空気を吸うようにネットの海を泳ぐ現代っ子。だが今は、その声に滲む明らかな怯え。

「感情論は不要です、ミナミさん。座標の特定が先だ」

「だって、その村……ダムの底なんでしょ? じゃあ、なんで今、そこからDMが来るの?」

ミナミの訴えを無視し、古地図と現在の衛星写真を重ね合わせる透。

ビンゴ。

ダム湖の中央、水深八十メートルの底にかつて存在した『カガチ村』。水没したのは昭和二十年代後半。DMの『業務日誌』の日付と符合。

「アーカイブ」と名乗るアカウントから、五通目の画像。

『贄(にえ)の選定、完了せり。贄は四角き箱の中にあり。青き光に照らされ、無数の文字を操る者なり』

四角き箱。

見回す室内。六畳一間のコンクリート打ちっ放しのワンルーム。

青き光。

目の前の巨大なモニター。

無数の文字。

キーボードと、そこに表示された膨大なログ。

早鐘を打つ心臓。肋骨を内側から激しく叩く鼓動。呼吸が浅くなり、酸素が脳に行き渡らない。

これは、過去の記録ではない。

今、この瞬間、水底にあるはずの村役場で、何者かが筆を走らせている。

「透」という男を、生贄として台帳に書き込みながら。

『次ナル手順ハ、拡散ナリ』

無機質なテキストメッセージと共に、勝手に操作され始めるアカウント。リツイート、シェア、拡散。制御不能のプログラムが、カガチ村の情報を世界中へばら撒いていく。

「な、なんだこれ……操作できない!」

叫んだ瞬間、部屋の照明が明滅。

バチッ、という不快な音と共に焼き切れる蛍光灯。

残されたのは、モニターの青白い光だけ。

その光の中で、透の影が不自然に長く伸び、壁のシミと混ざり合う。人の形をした何か別のモノへの変貌を、彼は見た。

第3章: 逆転する視座

「透さん、聞こえる? ねえ、変な音がするの。水が流れるような……」

スピーカーから漏れるミナミの声。ノイズ混じりの歪み。

透はキーボードを叩く手を止められない。いや、止めようとしても指が勝手に動くのだ。

画面上の『カガチ村』に関する考察記事は、既に十万プレビューを超えていた。

その数字が増えるたび、湿り気を帯びていく部屋の空気。

床板の隙間から立ち上る、ドブ川のような腐臭。

壁紙の裏から聞こえる、ブヨブヨとした何かが這い回る音。

透の脳裏を走る、稲妻のような閃き。

「場所」じゃない。

カガチ村は、物理的な土地に縛られた幽霊屋敷などではない。

この『情報』そのものが、村。

『業務日誌』という断片的な情報を閲覧し、それを脳内で組み立て、考察し、想像した人間の意識の中に、カガチ村は再構築される。

そして、オカルトフォーラムの管理人として、誰よりも詳しく、論理的に、その村の構造を分析し、拡散してしまった自分は――。

「俺は……傍観者じゃなかった」

透の口から漏れる乾いた笑い。

自分は安全圏から怪異を覗き見る観客だと思っていた。

だが、断じて否。

俺は、この儀式を執り行う『神主』そのものだったんだ。

俺が考察を深めるほど、村の解像度は上がり、実体化する。俺が情報を拡散するほど、増え続ける生贄候補。

『儀式ノ執行、感謝ス』

モニターに表示された文字。垂れる赤黒い液体。

スピーカーを突き破るミナミの絶叫。

「いや! 来ないで! 足が、足が冷たい!! 水が!!!」

ガガガ、プツン。

切断。

透が見た足元。

消失したフローリングの床。揺らめく暗く濁った水面。

水面に映っているのは、透の顔ではない。

目も鼻もなく、ただ巨大な口だけが裂けた、名もなき村人の顔。

第4章: 悪意への反逆

「ふざけんな……ふざけんなよ……!」

ガタガタと震える手でマウスを握りしめる透。

恐怖で胃液が逆流し、喉が焼けるように熱い。だが、それ以上に血管を駆け巡る煮えたぎるような怒り。

特権階級気取りで安全圏にいた自分への怒り。

そして、何の罪もないミナミを、あの子の純粋な好奇心を利用し、食い物にしようとする古臭い因習への激しい憎悪。

「アカウント削除……削除……!」

設定画面を開く。しかし、『アカウント削除』のボタンがあったはずの場所に広がる空白。

画面の向こうで気配を感じる。何百、何千という『村人』たちが、にたにたと笑っている気配。

『逃ゲラレル、ト思ッタカ?』

モニターに浮かび上がる文字。

透は立ち上がり、モニターを掴んで揺さぶった。

「俺を誰だと思ってる……! 俺は九条透だ! テメェらみたいなカビの生えた幽霊ごときに、マウント取られてたまるかぁぁぁ!!」

脱ぎ捨てられるパーカーのフード。鷲掴みにされる乱れ髪。

論理だ。論理で殴れ。

怪異にもルールがある。観測者がいて初めて成立する『概念』ならば、その観測のされ方を書き換えればいいのだ。

「恐怖は、笑いに弱い」

血走った目で向かうキーボード。

指先から血が滲むのも構わず、凄まじい速度でタイピングを開始。

目指すのは、削除ではない。上書き。

この儀式の『解釈』を、根本からハッキングする。

第5章: 圧倒的優越と代償

開ききった瞳孔。口元に張り付く狂気的な笑み。

透は『カガチ村』の画像を編集ソフトに放り込んだ。

厳粛な業務日誌の画像に、極彩色のフィルターをかけ、挑発的なフォントで文字を打ち込む。

『【悲報】カガチ村の村長、踊ってみた動画で腰をやるwww』

『生贄儀式とか言ってるけど、これただの村おこしフェスじゃね?ww』

不謹慎極まりないコラージュ画像の数々。

透はそれを、自身が持つすべてのアカウント、裏垢、コネクションを使って一斉投下。

さらに、呪いの言葉とされていた文言をサンプリングし、安っぽいEDMにリミックス。

「拡散しろ! 怖がるな、笑え! こいつらはただのピエロだ!!」

SNSの反応は劇的だった。

恐怖の対象だった『カガチ村』は、瞬く間に「ネタ画像」として消費され、おもちゃにされていく。

『村長かわいいw』

『儀式なうに使っていいよ』

『カガチ村行ってきた(大嘘)』

大量の「草(w)」という文字が、断ち切っていく呪いの連鎖。

モニターから聞こえていた水音が、悲鳴へと変わる。

『ヤメロ……崇メヨ……恐レヨ……!』

「恐れる? お前らなんか、もう誰も見てねえよ! フリー素材がお似合いだッ!!」

最後の仕上げ。Enterキーを拳ごと叩き割る勢いで押し込む。

「死ね! 陳腐化して、忘れ去られて、データの藻屑になって消え失せろぉぉぉ!!!」

放たれる閃光。

膨張し、部屋全体を飲み込む青白い光。

ガラスが割れる音。水が蒸発する音。そして、耳をつんざくような高周波となって炸裂する、何千もの怨念の断末魔。

視界が真っ白に染まり、暗転。

鳥のさえずり。

椅子の背もたれに深く沈み込む身体。

モニターは黒く沈黙している。部屋の床は乾いており、あの腐臭も消失していた。

スマホの震動。ミナミからだ。

「……透さん? なんか私、急に寝落ちしちゃって。変な夢見てたかも。透さんがDJやってる夢」

屈託のない、いつもの声。

透は小さく息を吐き、口角を上げた。

「……そうですか。それは悪夢ですね」

立ち上がり、洗面所の鏡の前で対峙する。

そこに映る男は、変わらず黒いパーカーを着て、疲れ切った顔。

だが、ひとつだけ違っていた。

左目が、白く濁っていた。

光を失い、焦点の合わない硝子玉のような瞳。

視界の半分を閉ざす、永遠の闇。

これが、深淵を覗き込み、それを汚泥の中で踏み躙った代償。

神聖な儀式をミーム汚染させた報い。

透は鏡の中の自分に向かって、ニヤリと不敵に笑いかけた。

白濁した左目が、異界を見据えたまま、告げる勝利。

「代償は払った。だが――俺の勝ちだ」

眼鏡をかけ直し、再び暗い部屋へと戻っていく。

キーボードを叩く音だけが、高らかに響き始めた。

クライマックスの情景

AI物語分析

【物語の考察:恐怖の相対化と現代の魔術】

本作は、古典的な「村八分」「因習」というホラーの定石を、現代インターネットカルチャーである「ミーム(文化的遺伝子)」で解体する物語である。主人公・透が行ったのは、呪いそのものを無効化することではなく、呪いの「文脈(コンテキスト)」を書き換える行為だ。恐怖は「未知」と「不可侵」から生まれる。しかし、それを「ネタ」として消費し、嘲笑の対象(可笑しいもの)へと変質させた瞬間、怪異は「神格」を失い、ただの「データ」へと堕ちる。これは、集合的無意識を操作するという意味で、現代における高度な魔術的儀式(ハッキング)に他ならない。

【メタファーの解説:左目の代償】

ラストシーンで透が失った左目は、北欧神話のオーディンが知恵を得るために捧げた隻眼のメタファーであると同時に、「深淵を覗く者」としての刻印でもある。彼は怪異を否定する立場から、怪異を認識し、それを「汚染」することで勝利した。濁った目は、彼がもはや純粋な科学の世界の住人ではなく、彼岸と此岸の境界線上に立つ「トリックスター」へと変貌したことを示唆している。

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あなたのアイデアをAIに与えて、この物語の続きや、もしもの展開を創作してみましょう。

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